本研究は、19世紀アメリカ文学を「可傷性/脆弱性(vulnerability)」の観点から考察するものである。
可傷性は21世紀になって学術的にも社会的にも多用されるようになった概念である。本研究では、理性的・自律的な「リベラルな主体」が政治・社会・文化の中心と想定されていた19世紀のアメリカ合衆国にあって、同時代の文学作品には相互依存的で可傷性を持つ「傷つきやすい主体」が多数登場することに着目する。19世紀アメリカ文学作品における可傷性/脆弱性を(1)「他者と環境」、(2)「性・人種・階級」、(3)「ケアの倫理」の3つの観点から考察し、「傷つきやすい主体」の文学的表象を近代西洋思想に見られる「リベラルな主体」への文化的抵抗と位置付ける。そして可傷性に基づいた新たな社会の在り方を希求する現代の学術的運動のなかで文学的想像力や文学研究が担う役割を示す。
本研究プロジェクトは、JSPS科研費の助成を受けたものである(課題番号:22H00649)。